私が欲しているのは
「……あのさあ、」
「うん?」
ずび、と鳴る鼻がうっとおしい。薄着のまま、平気そうにしてるこいつもムカつく。コートの中は着流しだけの辰馬とは反対に、私は厚手のコートにマフラー、耳当て、その上に毛布といった重装備。当然ながら重い。なのに、それでも寒い。
「確かに、雪が見たいって言ったのは私だけどさあ……こんな見渡す限りの銀世界に連れてってとは言ってない気がするんだよね?」
3時間前、きっかけは宇宙から帰ってきた辰馬との久々のデート中。2月だというのに雪の降らない我が町で、ぼそりと呟いたひとことだった。
「雪、今年に入ってから一度も降ってないんだよねえ。……冬なんだから、一日ぐらいは見てみたいなあ」
それを、何を勘違いしたか辰馬は、「良い所知っちょるぜよ」と言い終わるか終わらないか、私の腕を取って走り出した。いやまあ、腕を取るところまでは格好良かったんだけどね。
まさか、そのままターミナルに連れて行かれるとは思わないじゃない。
「気温どんだけなのよ……さむっ」
「あっはっはっは、ダイヤモンドダストが綺麗じゃのう」
「笑ってる場合か」
知ってるかな、ダイヤモンドダストはマイナス2度以下で発生するんだよ。
このままでは風邪を引いてしまう。そう思った私は――毛布を少しだけ開く。
「ほらっ辰馬!」
「ん?」
「……毛布、入れてあげなくもない」
寒いのに、頬だけが熱い。
辰馬はニヤニヤしながら腰を落としてかがむと、毛布の端を私の手から奪う。そして、空いた場所に潜り込んだ。
「かわいいにゃあ」
「うるさいうるさい。嬉しいとか思ってないからうざいから」
「思うとるんじゃろ、まっことかわいいちや」
のう、もうちっくと見ていかんか。その言葉に小さく頷いて、頭をそっと辰馬の胸に寄せた。