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彼女不足

 リーバーさんがダウンした。ちらりと脳裏をよぎる、思い当たる節。過労、と、たぶん、ちょっぴり心労。  実は、昨日までは私のほうが、風邪で寝込んでいたのだった。それが何故リーバーさんの心労に繋がるのかというと――話せば、長くなるのだけど。簡単に言うと、私と隔離されたこと、だと思う。  だって、科学班班長たる彼に風邪なんて絶対に移したくないじゃない。その一念で私は、私を甘やかそうとするリーバーさんから離してもらうために、医療班に頼ったのだった。そうして、書類仕事だけを回してもらって、1週間。全快した私を久々に目に映した彼は、周りの目も意に介さず私を抱きしめ、そのまま体を預ける形で眠ってしまったのであった。  びっくりしたなんてもんじゃない。何より、科学班という場所で抱きしめられたことが。普段は、手をつなぐところすら、人に見せないのに。……もしかして、我慢させてしまっていたのだろうか。私が普段、人前で愛されるのを恥ずかしがるから。  なんてことを延々と、眠り続けるリーバーさんの頭を撫でながら、考えていた。ずっとずっと、考えていた。考えていたら、いつの間にか私のまぶたは重くなり、体はベッドに吸い込まれていた。
 目を覚ますと、目の前には同じく、目を開けてぼうっとしているリーバーさんがいた。 「リーヴィ」 「……コハク」  彼の声は、少し掠れていた。  吸い込まれるように、唇を重ねる。おまけに軽く、もうひとつ。熱が離れた、と思ったら、すぐにそれは全身を支配した。ぎゅっ、と、痛いくらいに抱きしめられる。 「ちょっと、栄養補給」 「……お願いだから、物理的にも栄養補給してね」 「ははっ、善処する」  優しく抱きしめ返して、背中をさする。なんとなく痩せたような気がするのは、彼がやつれて見えるからだろうか。  しばらく彼の心音を堪能していると、時計の針が、かちっと音を鳴らした。思わずそちらを見れば、もう13時を回るところだった。 「そろそろ戻るか」 「……の前に!」  彼の無精髭にキスをして、物理的栄養補給を提案するのであった。
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