聖夜のプレゼント
「やあやあ諸君、メリークリスマス! 堕落王フェムトだよ!」
私はテレビの前でぼんやりと、その人を眺めた。
ヘルサレムズ・ロットに越してきて、数日。周りに知り合いも居ない状況で私は、ひとり寂しいクリスマスを、再放送の恋愛映画を見ながら過ごしていた。そして、人間と異界人が結ばれる感動の瞬間――テレビの画面が急に変化したのだった。
誰だろう、この人。間違ってリモコンを操作してしまったのだろうか、そう思ってチャンネルを他に回すけれど、一向に反応しない。壊れたかな。やだ、買ったばっかりなのに。なんてしかめっつらをしている間にも、画面の向こうで、銀色仮面の男(たぶん)はなんやかんやと話し続けている。
「……そういうわけで暇で暇でしょうがない僕は、ヘルサレムズ・ロットから、誰か一人を適当に招待することにした! 今から画面に転移装置を組み込んで、ランダムで選ばれた座標から一番近いテレビに繋がるようにするから、そのつもりで居たまえ! ではまたな、よい休日を!」
ああ、話が終わったらしい。よくわからないが、明日にでも修理に出すかな。と、心に決めたそのとき。あろうことかそのテレビから、にゅっと白い手袋が一組伸びてきた。驚く間もなく、私はテレビに引き寄せられた。
反射で目をつむる。
危ないぶつかる……と思ったのに、何も衝撃がない。恐る恐る視界を広げると、そこは、先ほどまでテレビに映っていた場所だった。うっすらと、寒そうだなーと思っていたのだけれど、案外暖かい。
「ウェルカム、13王の間へ! 初めまして、かな、レディ」
背中から聞こえてきた声に肩を驚かせる。振り向けば、あの銀色仮面がいた。
「あっ、あの……?」
「驚いて声も出ないか! すまないね突然、でも安心していいよ。今日はゲームをするつもりはないからな」
「ゲーム?」
首を傾げれば、きょとんとするのは銀色仮面の方だった。
「なんだ、僕を知らないのか。ヘルサレムズ・ロットの新入生だな」
「あ、はい、越してきたばかりで……」
「なら尚更丁度いい、そして君もなかなかに幸運だよ! 今日の僕ぁ珍しく『普通』を望んでいたからな!」
その浮かれ様に、彼の第一印象に、「陽気な人」と情報を付け加えた。
「さて、じゃあ自己紹介から始めなければな。改めてはじめまして、私はフェムトだ。一応13王というやつの一人に数えられていてね、私はその中の『堕落王』だ」
「あ、えっと私は」
慌てて口を開くと、手袋で制された。見覚えのあるそれに、ああこの人が私をここに連れてきたのか、と確信する。
「あーいいよいいよ君の自己紹介は。どうせすぐ忘れてしまう。そんなことよりだ!」
ばっ、と腕を広げると、銀色仮面――フェムトの背後に、巨大なクリスマスツリーが現れた。
「さあ、パーティーを始めようじゃないか!」
あれから数ヶ月。変な連れ去られ方をしたから少し警戒していたのだが、パーティーは至って普通に始まり、至って普通に終わった。途中で参加してきた同年代くらいの女の子とも仲良くなって、また遊ぶ約束をして、連絡先を交換した。更に、アパートまで丁寧に送り届けてくれた。テレビではなく、ちゃんと大きい転移装置とやらで。
……だから、そんな危険人物だとは思わなかったんだってば。
「ダメですよ! 僕が……いや僕が行っても無理だな、せめてザップさんを護衛に付けますから!」
「ザップくんはレオくんの護衛でしょ、私は一人でも大丈夫よ~」
必死に説得しようとするレオくんには申し訳ないけれど、もう既に何度も遊びに行っているし、名前も粘り勝ちで覚えてもらった。ライブラにも報告済みだ。
尚も心配するレオくんに、仕方なく私は、耳打ちすることにした。レオくんはそれを聞くと真っ赤になって口をぱくぱくと開閉すると、小声で「いってらっしゃい」と言ってくれた。
――好きな人に会うのに、誰かの許可が必要かしら?
なんてね。
堕落王版ワンドロワンライ
手袋/テレビ/クリスマス