甘やかしの天才
また、フェムトさんの気まぐれが始まった。現在進行形で頭を撫でられながら膝枕されている私だが、あまりにも撫で方が気持ちよすぎて、先ほどからまぶたが落ちては開いてを繰り返している。……よだれ、垂れないといいんだけど。
事の始まりは、うっかり私がフェムトさんの頭を撫でてしまったことだった。折角開催したゲームがまたライブラによって阻止されたとかなんとかで拗ねていたフェムトさんを、ちょっぴり労うつもりで、「残念でしたね」って言葉と共に、やってしまったのだ。ところがなんと、それをされた彼の表情は "無" だった。今までに見たことのないその顔に、正直、振られるかと思って顔が青ざめた。ところがフェムトさんは、撫でていた手を取り、私を引き寄せると、こう宣言した。「君、僕に甘やかされたまえ」、と。
――甘やかすつもりが、どうしてこうなったのかなあ。
とろとろと落ちそうになる頭を動かし、フェムトさんを見上げる。
「ねえ、フェムトさん」
「なんだい」
「それ、だめです、きもちよすぎて寝そうです」
「……ふむ」
するとフェムトさんは、私の頬を包み込んだ。仮面が視界いっぱいに見えたと思ったら、唇に、柔らかな感触。
「じゃあ、添い寝でもしようか」
背中と足に腕が差し込まれ、体がふわっと浮く。そうしてそのまま、私をベッドまで運ぶと、柔らかく沈ませるだけに留まらず、靴までそっと脱がせてくれた。上着を脱いだフェムトさんは、シャツの胸元を緩ませ、私の隣に滑り込む。思わず彼の腰に腕を絡ませれば、フェムトさんも私を上から包んでくれた。ああ、あたたかい。
「んふふ」
「なんだい」
「ふぇむとさん、わたしのこと、すごく、わかってくれてる」
だって、してほしいこと、全部してくれたんだもの。甘やかす宣言は伊達じゃなかった。深呼吸すれば、フェムトさんの匂いで肺が満たされる。
「ふふん、僕を誰だと思ってるんだい」
「わたしの、ふぇむとさん」
「君の、か。いい響きだ」
ぎゅうっ、と、抱きしめられる腕に力がこもった。彼に愛されているという事実が、こんなにも幸福で満たされていることが、なんだか怖くてたまらない。
もう少しこの幸せのままでいたいけれど、もう頭がとても重たい。意識が白と混ざり合う直前、フェムトさんの声が聞こえた気がした。
「おやすみ、僕のコハク」
そして、この後も一日中甘やかされるなんて、このときは思ってもみなかったのだった。