彼女は僕のかわいい人
上半分の髪をすくって、右腕に通しておいたゴムでさっとひとつにまとめる。その上から、赤色のリボンを被せる。一度両端を下に通して、上できゅっとちょうちょ結びにすれば、それは見慣れた妹の髪型だ。ただ違うのは、それが明るいブラウンではなく、深い黒だということ。
「はい、できたよ」
「さっすがお兄ちゃん、手慣れてるな~」
「っへへ、こんなところで役立つとは思わなかったけどね」
ぽんぽん、と頭を軽く撫でれば、彼女はくすぐったそうに首をすくめた。
僕がさっき髪をハーフアップにしていたのは、妹ではない。妹ではなく、この年にして初めて出来た……恋人、だ。
もだもだした半年の片思いの末、2月の終わりにようやく告白して、思いが通じ合って。バレンタインデーは終わっちゃったね、と話していたら、彼女が言ってくれた。日本にはホワイトデーがある、って。だから今日は、二人で街へデートに行くのだ。
いつもは面倒がってしない化粧を、うっすらと施した彼女。すっぴんでも充分かわいいのに、僕のために頑張ってくれていると思うと、それだけで胸がきゅーんとする。きっとこれがジャパニーズ「萌え」だ。
僕が長く黙ったままでいるのを不思議に思ったのか、彼女は僕の目の前で手をひらひらとさせた。そんなところもかわいい。思わず手を取って、指の先に唇を落とした。
「あっ、な、……レ、レオ!」
「やっぱ、かわいーっす」
でれーっと目尻を下げると、彼女は頬を膨らませてぷいっと横を向いてしまった。ふわん、と長い髪が舞い、細いリボンが揺れた。彼女の髪になら、もっと大きな飾りリボンをしても可愛いかもしれない。
――だめだ、見とれている場合じゃない。すぐに僕のお姫様の機嫌を直さなくっちゃ。今日は、彼女の服と僕の時計を見て、クレープを食べたらスーパーに行って夕飯の準備をしなければならないのだから。
「……今から行けば、映画も見られるよ」
「行く!」
即答した彼女は僕の手を取ると、そのまま引っ張って玄関まで導いた。
まったく、敵いっこない。結局のところ僕にとって、彼女の笑顔に勝るものなんて、何ひとつないのだ。
ホワイトデー企画2016