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幸せの温度

「フェムトさん、日本語の "おとぎ話" って知ってます?」  カラカラとアイスティーの氷を回しながら尋ねれば、フェムトさんはストローから口を離した。頼んだパスタは少しばかり時間がかかるらしく、お腹すいたー、と零したら飲み物を先にくれたのだ。 「知ってても話したいんだろう?」 「えへへ、そうなんだけどさ」  おとぎ話、英語ではフェアリーテイル。難しい漢字で書くと「御伽噺」。日本語におけるその由来は、暇を慰めるために話をすることを「伽」と呼んだことから、らしい。 「つまりですね、フェムトさんが今望んでるのは "おとぎ話" なんですよ」 「……それで?」 「それだけです」 「君は、ほんっとうに、意味のないおしゃべりが好きだな」 「それをいつも望んでるのはフェムトさんでしょ」 「僕がそんなもの望んでると思ってたのかい」  えっ、違うの。  びっくりしたところに、パスタが運ばれてきた。フェムトさんが受け取って、粉チーズを振りかける。……待ってどういうこと。 「まだ理解できてないらしいな」 「だ、だって外食するたびに話をねだるのはフェムトさんじゃない」 「それは手段だよ」 「ええー……?」  考えながらチーズを振りかけたら、大きな塊がごろんと出てきた。ちょっぴり悲しい気持ちでフタをしめて、フォークで潰す。 「それこそいつも言ってるだろう、君の反応は飽きないんだよ」  ええと、つまり。それは、わたしの話してる様子が好きだ、と。フェムトさんを見れば、わずかに唇をとがらせていた。あっこれ照れてるな。 「もうひと声!」 「……君がかわいいんだよ、わかるだろう」 「それで?」 「ああもう、君が好きだと僕は何度繰り返せばいいんだい!?」  んへへへへ。ふわふわした気持ちのまま、くるくる巻いたパスタを口へと運んだ。
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ふわふわ/お腹すいた/おとぎ話
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