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ゼンマイ仕掛けの心臓部

 ソファでごろごろしていると、背中にずしっと質量を感じた。フェムトさんが、何かを置いたようだ。確認しようにも、うつぶせのままでは見えない。  なにこれ、と聞けば、作ってみた、とだけ返ってきた。 「作った、って」 「気まぐれの暇つぶしだよ」  だから、私の背に乗ってるこれは一体なんなのだ。  ――まさか、また変な生物でも生み出したんじゃ。  いやな予感がしたけれど、確認しないことには始まらない。思い切って、えいっと「それ」を手に持って、体をひっくり返した。  まず見えたのは、ネジのようなもの。全体的に、箱のような形をしている。ネジは、猫足のついた箱の底面についていたのだった。蓋に施されたツタの装飾が、綺麗なのに派手すぎなくて、なかなかに好みだ。 「なあに、ビックリ箱か何か?」 「あ、その手があったか」  いやいらないからね、と釘を刺しておく。  しかし、違うのか。なんだか考えるのも面倒になってきたので、とりあえずネジを回してみることにした。  カチカチカチ、という手応えに、特に不審な点は見られないように思われる。が、油断は禁物。緊張しながら、恐る恐るネジから手を離した。  ギィ、と小さく、歯車のような音がする。続いて、金属の弾かれる音。ぱらん、ぽろん、とメロディーを奏でるこれはもしかして。 「オルゴール?」 「綺麗だろう。君にあげるよ」  嬉しい、ありがとう。そう返事したかったのに、うまく声にならなかった。うっとりと耳を傾け、目をつむれば、世界がオルゴールに支配される。  やがてテンポがゆっくりになり、最後の1音を奏でると、完全に静止した。 「すごい、世界が、フェムトさん色だ」 「気に入ってくれたようで何よりだよ」 「でも、なんで、急に」  座らないのかな、と思いつつ見上げれば、そこにフェムトさんはいなかった。きっと魔道なんちゃらでどこかへと移動したのだろう、つくづく便利な能力だ。  そういえば、箱の中身を確認していなかった。本当にビックリ箱ではありませんように、と祈ってから、そっと蓋を開けた。 「――あいつ、逃げたな」  思えば最初から、彼の様子はおかしかったのだ。  ビックリ箱なんて比べものにならない。中央にちょこんと座っていたのは、シンプルなシルバーのリングだった。
旧拍手お礼
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