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お返しは花言葉

 ただいま、の言葉と同時にぽいっと私の膝に投げられたのは、オレンジのガーベラだった。 「なあに、これ」 「見りゃわかるだろ、ガーベラ」 「いやあ、ここHLだし?」 「……少なくともそれは『外』と同じガーベラだよ」  へえ、と曖昧に返事をして、それをつまみ上げる。どうやら本当に、ふつうのガーベラらしい。  今日は日本で言うホワイトデーで、変に律儀なダニエルが何かくれるであろうことは予測していたけれど、ラッピングもしていないガーベラ一本だとは予想外だ。 「わたしガーベラが好きとは言ったけど、白のが好きとも言わなかったっけ」 「るっせ、てめえは "純潔" って柄でもねえだろ」 「花言葉?」 「おう」 「花屋さんに聞いたの? わざわざ?」 「……おう」  かーぁわいい。  コートをかける振りしてそっぽを向くダニエルがかわいくてニヤニヤしていると、振り返ったところで、気持ちわりい、と冷めた目で見られた。そんなところも可愛いのだけれど。  しかし、白のガーベラにそんな意味あったかなあ。ガーベラを膝に戻し、片手のスマホで花言葉を調べた。希望、律儀。純潔、とは載っていない。ついでにオレンジの欄も見る。……神秘、冒険心、我慢強さ。 「これ、恋人に贈るのってどうなのよ」 「ああ?」 「わたしってそんなに神秘的で冒険心あふれる我慢強い女?」 「なんだそりゃ」  だってほら、と検索結果を見せれば、「俺日本語わかんねえんだけど」とため息をつかれた。 「つかたぶん、そっちじゃねえ」 「んー? あ、」  ひょいっとスマホを奪われる。何か入力したと思ったら、渡されたのは英語の検索結果の画面。ひとつ選んでページを開く。 「ぷっ」 「……んだよ」 「んふふふふ」  ネクタイを外す彼の、空いた横腹めがけて勢い良く手を回す。 「やっぱりダニエルくんは可愛いですなあ」 「あーはいはいちょっと離れろネクタイ取れねえ」 「わたしが取ってあげてもよいのですよ」  ご機嫌で申し出ると、この場で脱がされたいかテメー、とキレ気味に問われたので、今日シーツ新品だよと煽っておいた。
ホワイトデー企画2016
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