科学班の休日
科学班班員でリーバーとは夫婦。
二人部屋でベッドも共有しているが、二人とも多忙なため、なかなかタイミングは合わない。
ごろーん、とベッドに転がってみると、ベッドってこんなに大きかったんだなぁと気づいた。今更かもしれないけれど、いつもは帰ってきてすぐ寝てしまうから考えたこともなかったのだ。
今日は一日休みを取った。というのも、働きすぎの科学班を見かねた医療班が、週に一日の休日を義務化するようコムイ室長に直談判してきたらしい。まさか婦長、私たちのことを思って……! と期待したけれど、理由はもっと複雑だった。
「貴重なベッドを無闇に占領しないでくださいまし。他と違って、貴方がたの過労は予防できるものでしょう。今まで見過ごしていたのが間違いでしたわ。いいですか、今すぐにでも改善していただきますからね」
とのことだった。婦長、強い。
そういうわけで、久々に夫婦そろって休日を取ったのだ。……なのに、リーバーさんは緊急の呼び出しがかかって行ってしまった。いやいや、一番休息が必要な人に何してくれてんの。仕方ないのは分かるけど、納得はできない。
しかし暇だなあ。仕事以外に趣味がないから、何もしようがないのだ。無意味に寝そべってみたベッドは、新婚の頃に買ったキングサイズ。悲しいことにあまり使えてないから、壊れるどころか不具合すらない。何度かごろんごろんと寝返りを打ってみたけれど、それも飽きてきた。うつぶせになって軽く伸びをしてみる。目の前には、枕がふたつ。
「……ん」
思わずそのひとつに手を伸ばす。私が、普段使っていない方。ごろん、と横向きになって、ぎゅーっと抱きしめてみる。息を吸うと、安心する匂いで満たされた。
撫でられている。頭を、ゆったりと。……きもちいい。
んん、と寝ぼけながら声を出すと、「起こしたか」と問われた。リーバーさんの声だ。
「あれ、おかえり?」
「ああ、ただいま」
重い上半身を起こす。まだ開かない目をこすっていると、頭にキスが降ってきた。
「ごめん、寝ちゃってたね」
「いや。そもそもそういう休暇だからな、今日は。正しい使い方だよ」
「ん、そっか」
重いまぶたのまま、リーバーさんの頬に唇を近づける。ふに、と軽く当ててみたけれど、リップ音はうまく鳴らなかった。
……なんだか、物足りない気がする。吸い寄せられるように、もう一度。反対側の頬にも、ひとつ。ううん、まだ足りない。なんだろう。頭を傾けると、首筋が目に入った。おいしそうだな、なんてぼんやりしながら、ついでに軽く口付けた。
そういえば反応がない。どうしたのかな、と離れてみると、リーバーさんは赤くなって固まっていた。
「ふふ、めずらしい」
「珍しいのはコハクの方だろ。俺の枕抱いたまま寝てるし、起きたらいっぱいキスしてくれるし。どうしたんだ?」
「だって寂しかったんだもん」
言葉が出てきて、初めて気づいた。そうか、私は寂しかったんだ。それじゃあ仕方ないよね。寝起きでうまく考えられないまま、リーバーさんの肩にもたれかかる。すり、と少し体重を預けてみれば、リーバーさんは再び頭を撫でてくれた。
「……なあ、コハク。寝るか」
「んえ、もうちょっといちゃいちゃするー」
「いいから、ほら」
軽く引かれるままにベッドへ沈むと、リーバーさんの腕がすぐそこにあった。少しだけ上に動いて、リーバーさんと頭を並べる。そこで、ようやく意味がわかった。
「な?」
「うん、こっちのほうがいいや」
いつもは身長差で遠くにある顔が、こんなに近い。
……これは、いいな。ニコニコしているリーバーさんに思わずそのままキスをすると、同じく軽いキスを返してくれた。