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逡巡

 数日前の私に言ってあげたい。あなたリーバー班長とデートしてるわよ、って。いやまあデートというほどのものじゃあないだろうけども。どちらかというと、私が勝手に付き合わせてる、が近いか。  地上に辿り着くと、街は大賑わいだった。何かあったっけ、と思い巡らせる。2月、と言えば。 「ああ、そろそろバレンタインデーでしたっけ」 「今気づいたのか」 「だって、研究室に居たら日付感覚狂いますもん。今日って何日でしたっけ」 「14日だよ」  ……えっ、うん?  頭が真っ白になる。そんな、まさか今日が。 「お前はそう思ってないかもしれないけど」  そしてリーバーさんは、私の方に向き直って。 「今日のこれは、デートのつもりだからな」  そう言うリーバーさんは、とっても優しい表情で。返事を待たずに、リーバーさんは私の手を取ると、そのまま握って、歩き出した。触れる手のひらが、温かい。その大きな体温に包まれて、私の心拍数は上がる一方だ。  デートだ、と。つまり、どういうこと?  期待してしまいそうな自分を、押し込める。だめだ、これ以上欲張ってはいけない。私は、ひとつだけ持てれば、それで十分なんだから。けれど、手は確かに繋がれていて。  ――どうしたら、いいんだろう。  答えが出ないまま、導かれるままに隣を歩いた。  それからは、これでもかというほど、時間がゆっくりに感じられた。リーバーさんからの言葉はどれも甘いものばかりで、私の慌てる姿すら「かわいい」と表現した。今日の「リーバーさん」は、職場の「リーバー班長」とは、大違いで。この人はこんなにもロマンチストだったのか、とびっくりするくらいだった。今何時だろう、と懐中時計を開ければ、まだ12時の少し前だった。 「そろそろ何か食うか」 「あっ、じゃあデザートにチョコケーキも食べたいです」 「ははっ、お前好きだよな」  その向けられる瞳すら、とろけるようで。まるで、本当に恋人同士のような。……もしかして、リーバーさんって、私のこと好きすぎるんじゃないかしら。  口説かれているうちに、どうやら本当にリーバーさんは私に惚れているらしいということを知った。けれど、私の心がブレーキをかける。だって、これ以上欲張ってしまったら、どうなってしまうかわからない。両思い、だとしても、リーバーさんの気持ちに、きっと私は応えられない。  どうしたら、いいんだろう。  何度めかのその問いに、答えることなんてできなかった。
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