恵雨
目を覚ますと、14時を回ったところだった。やけにすっきりした頭を起こして、クローゼットを開ける。いつものようにシャツを出そうとして、はたと気づいた。そうだ、今日はお休みをもらったのだった。そうして私は、久しぶりの私服に袖を通した。
食堂へ行くと、ジェリーさんが「聞いたわよーん!?」と惜しんでくれた。ジェリーさんにも、たくさんお世話になったなあ。きまぐれパスタをオーダーしたら、頼んでないのにチョコケーキもつけてくれた。こういうところが、ジェリーさんだな、って思う。人を、料理で幸せにしてくれる。席についてカルボナーラを口に運ぶと、それはちょっぴりしょっぱいような気がした。
ふたくちめ、と思ったら、カルボナーラに影がさした。
「隣、空いてるか」
声を聞いて、一瞬固まる。目線を上げると、そこにはリーバー班長がいた。
「ど、どうぞ」
「サンキュ」
リーバー班長はパンケーキを置くと、隣に座った。パンケーキは焼き立てなようで、まだ湯気が立っている。
「あっ、おいしそ。ひとくちください」
「じゃあコハクのもくれよ?」
「もっちろんです、どうぞ」
くるくると巻いて持ち上げると、リーバー班長は驚いたように目を丸くした。
「……冷めちゃいますよ?」
「あ、ああ」
一瞬ためらってから、口に含むと、「うまい」と小声で零した。
「バターのとこ、くださいな」
「はいはい」
苦笑しながらも、リーバー班長はバターのたっぷりかかった部分を切り分けてくれる。あーん、と頬張れば、口いっぱいに幸せが広がる。
「ふふ。なんだか、カップルみたいですね」
なんて、思い切って言ってみる。意識されてないからこそ言える言葉。リーバー班長は、ばーか、と言いつつも、否定はしないでくれた。この距離感が、いつも心地良い。
「なあ、コハク」
「はい」
「ゆっくりできてるか」
「はい、おかげさまで」
今日は、科学班の皆が代わりに、私の仕事をやってくれるとのことだった。申し訳ないけれど、私が抜けても科学班は回るようで、そこだけ少し安心した。
「リーバー班長は、少しは寂しく思ってくれますか」
「……当たり前だろ」
「えへへ。それなら嬉しいです」
私の恋心は、そのひとことで、潤いが満ちるのだった。たとえあと1ヶ月で捨てなくちゃいけないとしても、今は、今だけは、大切にしてあげたい。