僕の妻は感情豊か
ぱたん、と彼女は本を閉じた。控えめな瞳にうっすらと涙を浮かべて。
僕の妻は、僕と違って感情豊かで、いつだってまっすぐに思いを伝えてくれる。しかしその感情は、何に対しても平等に注がれていた。だからほら、物語にだってこんなに影響されてしまっている。たかが作り話だというのに、彼女の心は全てに注がれてしまう。そりゃあ多少は嫉妬するよ。でもそれ以上に、そんな彼女を美しいと思う。だって、僕はあの子の〝魂〟に惹かれたのだから。
「だから、あんまり見られると恥ずかしいってば」
「ごめんごめん。君があんまりにもかわいかったからね」
「……もう」
そうやってそっぽを向いても、短い髪からは赤い耳が覗いている。彼女はいつだって本心を偽らない。まったく、かわいらしいったらありゃしない。
彼女は目尻を拭いながら立ち上がると、続編を探しに本棚へと向かった。けれど、そのシリーズは少し高い場所に置いてあって、小柄な彼女には背伸びをしても届かない。めいっぱい腕を伸ばしてから、一息ついて、ちらりとこちらを振り返った。
「……ねえ、フェムトさん」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
彼女は本を受け取ると、何の疑いもなく僕にお礼を言った。
そんな君が見たかったから、わざと高い位置の本を渡した――なんて言ったら、この子はどんな反応をするだろうか。怒る? 拗ねる? それとも、僕に愛想を尽かしてしまうだろうか。……いいや、きっと違う。きっと彼女は僕にかわいい笑顔を見せてくれるし、僕をも笑顔にしてくれるだろう。ずっとずっと、そうしてきてくれたように。ひねくれた僕は、太陽のようなあの子に包まれて、ぐずぐずに跡形もなく溶かされてしまうのだ。そう、僕はまさしく、彼女に救われてしまっていた。