僕の妻は今日もかわいい
僕の妻は今日もかわいい。
夕飯は僕が作ろう、と進言すれば、彼女は「じゃあ、とびっきりオシャレしなきゃ」と鏡に向かい始めた。ドレスは僕に合わせてモノトーンに。ハニーブロンドの柔らかな髪はハーフアップに。くっきりした二重まぶたには、瞳と同じ深い色を。華やかな唇にはボルドーが似合う。化粧をしなくても十分すぎるのに、彼女は実にいきいきと自らの魅力を引き出していく。
ずっと前から僕の目には彼女しか映らなくなっているというのに、結婚してもその勢いは衰えることなく、魅力は増していくばかりだ。恋は盲目、というやつだろうか。だとしたら、僕の目は完全に曇りきっているはずだ。でなきゃ、こんなに彼女を渇求していない。恋愛なんぞ全くもって厄介なものだと思っていたし、今でもその気持ちに変わりはない。しかし、台風の目は得てして穏やかで澄み渡った青空が覗くものだ――つまり、そんな自分をあまり悪くは思っていない。ああ、それもこれも彼女の影響に他ならない。僕を変えたのは、まさしくあの子だ。
彼女は化粧ポーチをしまうと、どこか恥ずかしそうに振り向いた。
「あんまり見ないで、って言ってるじゃない」
「かわいい君が更にかわいくなる過程を僕に見るなと?」
素直にそう言えば、彼女は頬を染めて口を尖らせた。
「でもいいのかい、レストランに行くわけでもないのに」
「だってフェムトさん、家にいるときはずっと私を見てくれるでしょ」
だから気合を入れたくなっちゃうの、と、またかわいいことを言う。もともと引きこもりのようなものだが、これでは更に外出を控えたくなってしまうじゃないか。
彼女が椅子から立ち上がると、僕とまっすぐに目が合った。彼女はあまりヒールの高い靴を好まないが、僕はなかなか嫌いじゃない。こうして愛しい妻を正面から見つめることができるからね。
「それじゃ行こうか、お姫様」
「ええ、愛しい私の王様」
行き先は平凡なキッチンだけど、君はそれすらも特別にしてしまう。どんな科学も魔術も敵わない、君だけの奇跡だ。