僕の妻は
新婚生活2日目の朝。覚醒と同時に、彼女のつややかな髪が目に入った。まっすぐすぎて巻くのに向いていない、と言っていたような気もする。そんなことはどうだっていいのにね、だって彼女は彼女であるだけで価値があるのだから。
そんなことを考えていると、んん、と寝ぼけた声がした。そっと頭を撫でれば、へにゃりと唇が柔らかく弧を描いた。
「おはよう」
「おはようございます、フェムトさん」
僕が彼女の額にキスを落とせば、彼女も僕の両頬に同じことをしてくれる。そして最後に、唇へ。……このやりとりは、何度やっても慣れそうにないな。彼女は僕のことを「余裕があって羨ましい」と表現することがあるが、それは彼女が僕の内心を知らないから言えることだ。だって、その一瞬だけで心が全て彼女に吸い取られてしまうのだから。
ごまかしがてら、僕は彼女の肩を引き寄せて今日の予定を問うことにした。
「今日はどうしようか」
「うぅん……おとといの本、続き、よみたいな」
「おととい?」
「……あ、れ?」
ああだめだ。今日は〝新婚生活2日目〟なのだから。おとといの記憶など、あるはずがない。
「おとといって――?」
僕は手早く彼女の意識を奪い、心臓を破った。しまった、最短記録更新だ。けれど僕はもう彼女が崩壊していく様を見たくないのだ。それはもう試した。
記憶が混濁してしまった以上、もう望みはないと考えていいだろう。
そうして僕は仕方なく、その魂をまた瓶に詰め直した。