揺れる思惟
アリギュラちゃんのご機嫌は、過去最高にマックスだった。
「もうそれ~付き合っちゃえばよくない~!?」
「簡単に言ってくれるよねえアリギュラちゃん」
私の感情すら不確定なのに、それはあまりにも飛躍しすぎじゃないかしら。
今日の紅茶はレディ・グレイ、華やかな香りが私のお気に入りだ。特別に角砂糖ふたつのアリギュラちゃんは、足をパタパタさせながら私の話を聞いて盛り上がっていた。
「恋かどうかは置いといて~、コハクはフェムトのこと~好きなんでしょ~?」
「……まあ、それは、確かに」
好きかどうか。シンプルに問われると、”好き”以外の答えがない。
「フェムトも~もうコハクのこと~好きだと思うわよ~」
「それで、出た結論が」
「付き合っちゃいなさいよ~!」
確かに、好き同士が恋人になれたら、そんなにいいことはないけども。やっぱり "恋" というカテゴライズに疑問が残る私は、はっきり「付き合いたい」とは言えないのだ。
「人が恋をするのって、何でだと思います?」
「唐突だねえ」
フェムトさんは本を捲る手を止めて、私の方へ向き直った。
長い間悩みすぎた私は、もうこれ以上煮詰まっていても仕方ないと判断。いっそ開き直って、フェムトさんに聞いてみることにした。
「だって、私はフェムトさんのこと好きですけど、見てるだけで満足しちゃうというか」
「触れたいとは思わないのかい」
「うーん、できたら嬉しいですけど」
手招きする彼に素直に近づくと、急に手を取られた。手袋越しでも熱は伝わって、ぎゅっと握られると、その優しい仕草に嬉しくなる。
「――あっ、やっぱりダメです」
唐突に手を離した私に、フェムトさんは首を傾げる。
「何故?」
「どきどきして、心臓が持ちそうにないです」
いつものように胸を抑え込むと、フェムトさんはおかしそうに笑った。