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内幕に差す

 さて、彼女は知らないだろう、その胸の痛みが恋以外の由来も含むことを。そう、例えば――「副作用」とか、ね。 「もうちょっと、調整する必要がありそうかな」  彼女の寝顔を見ながら、その薬品に1滴だけ、異物を混ぜる。最近の彼女は眠りが浅いようだったし、きっと自律神経だろうとアタリをつけた。これで、胸の痛みは緩和されるはずだ。  そうして液体を布に染み込ませ、彼女の口元に。……持っていこうとして、手が、止まった。 「ははっ」  呆れて、乾いた笑い声が漏れる。  僕は、結果的にコハクが手に入ればそれでよかった。心までもと贅沢は言わない。そのつもり、だったじゃないか。  ――胸が痛まなくなったら、その感情が「なかったこと」になるんじゃないか、なんて。そんなことに恐ろしさを感じてしまうようになってしまった。  震える右手に左手を添えて、僕は日課のそれをしっかりと片付けた。  コハクは、もともとライブラの構成員であった。ライブラといっても特別ズバ抜けた能力があるわけではなく、人よりもほんの少し、表情を読み取るのに長けただけの一般人。不幸なことに、そんな一般人の彼女は、僕の目に留まってしまった。  そうして、僕は彼女を拐かし、異界に近いこの場所へと連れてきた。それから毎日、過去を思い出さないように薬品を調整し、やっと二週間前に今の彼女が完成した。  最初こそ、単純な好奇心だった。それは自信を持って言える。それが、どういうわけか。  布をどけると、コハクはわずかに眉をひそめた。そんなところも愛おしく思えてしまう。アリギュラちゃんの偏執を、今の僕は笑えない。  そっと彼女の頬に唇を寄せると、僕はそのまま部屋を立ち去った。
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