傾く万華鏡
「きらきら~……?」
「あれっ」
アリギュラちゃんとなら分かり合えると思ったんだけどな。そんなことはなかった。先日の話をアリギュラちゃんにすると、彼女は普通に首を傾げた。
「わっる~い顔してるとは思うけど~、きらきらはないわ~」
「ええー、そうかなあ」
うきうきと研究に勤しむ姿は、見ていてほんとうに楽しい。その結果が人類を脅かそうとも、私はその過程の、愉快そうに笑う彼を見るのが好きなのだ。
「まあ~気持ちは分からなくもないわよ~」
「ほんと?」
「んっふふ~。恋って~、盲目になっちゃうものだもの~」
意味深に微笑む彼女は、まさに恋愛の先輩といった感じで、とても頼もしい。セイロンティーに角砂糖をひとつ落としたアリギュラちゃんは、スプーンでくるくるとかき混ぜる。
「アタシは~アンタが幸せなら~それでいいわよ~」
「いやでも、これが恋かもわからないのに」
「ええ~」
恋ってことにしときなさいよ~、なんて、無責任な。
――ひえっ。
帰宅早々、私はフェムトさんの腕の中にいた。……正確には、コケた私をかばったフェムトさんを、下敷きにしていた。
「まったく、君のそそっかしさはどうにかならないのか」
「ご、ごめんなさい」
情けなさと嬉しさ、二重の恥ずかしさで目を合わせられない。フェムトさんと触れているという事実が、じわじわと頬を充血させる。
フェムトさんは私をすっと立ち上がらせると、買ってきた卵が無事なのを確認した。
――と思ったら、目の前にフェムトさんの顔があった。
「怪我はないかい、コハク」
「は、はい」
「それならいいよ」
真っ赤な私の頭を数度撫でると、そのまま荷物を持って行ってしまった。