錦の花に藍の水
んへへへ。ドライフラワーにした3本のバラを見ると、どうしても顔がにやけてしまう。この美しさを半永久的に保存することができるのだから、人の叡智ってすごいなあと思う。
と、そこで、思い出した。半永久的。そういえばフェムトさんも、千年生きてると言われているけれど。
「呼んだかい」
「ひあぁ!?」
耳元で声がして、思わず飛び上がる。見上げれば、そこには私を覗き込むフェムトさんがいた。さらり、と落ちる琥珀色に、鼓動が早くなる。
「一応、ノックはしたんだけどね。返事がなかったから」
「はへ……すみません」
「おおかた、また何かに没頭してたんだろう、フィヨトのそれは汚点であり美点だ」
美点、なんて言ってくれるのは、フェムトさんだけだと思うけど。
にやけていたのがなんだか恥ずかしくなって、はぐらかすついでに、先ほどの疑問を聞いてみることにした。
「フェムトさんって、千年生きてるんですか?」
「まあ、それくらいはね」
「不老不死って、どんな感じなんですか」
「どんな、ねえ」
フェムトさんは、指を口元に寄せて、考え込む。その仕草がどこか色っぽく見えて、思わず目線を下にずらした。
「そう、例えば、君のドライフラワーだ」
「えっ?」
「肉体には、必ず限界が来る。皆等しく、だ。けれど、僕みたいな奴は、それに逆らっている」
フェムトさんは、いつものソファに腰掛けると、足を組んだ。
「君のドライフラワー。さてそれは、本来の姿と言えるかな」
「……加工品、ですよね」
「そう、加工品だ。ドライフラワーと言えば聞こえは良いが、要は水分を失い、カラカラにしなびてしまった成れの果てだ」
ふいっ、と指を動かすと、そこには1本のチューリップ。そして、指を鳴らすと、途端にドライフラワーになってしまった。
「要するにね、僕もそうなんだよ。もはやこれは、加工しすぎて『僕の』身体とは言い難い」
「でも、魂は?」
「同じだよ! 千年も縛り付けてれば魂も劣化するさ」
だから不老不死なんてなるもんじゃないよ、とフェムトさんは言い捨てた。
そういうもの、なのかな。
私は、ドライフラワーも、素敵だと思うけれど。本来の姿でないとしても。だって、変化しないものなんて、この世に存在しない。その変化ごと愛せるのなら、それはとっても素敵なことじゃないだろうか。だとしたら、私にとってドライフラワーは、たとえ加工品であっても、劣化品なんかじゃない。
フェムトさんは、もう飽きたというように、チューリップを放り投げた。ので、思わず私の方に引き寄せて、キャッチした。
「これ、頂いてもいいですか!」
すると、フェムトさんは驚いたように口を半開きにすると、への字に曲げて、そっぽを向いてしまった。勝手にしたまえよ、と、そんなふうに言われた気がしたので、好きに解釈することにした。