やっと見つけた、私だけの
「好きです。あなたに恋してます、フェムトさん」
ああ、どうしてそんなことを口走ってしまったのか。気づいたときにはもう遅く、フェムトさんはぽかんと口を半開きにした後、膝を叩いて大笑いしていた。
「僕に? 恋を? 正気かい君!」
「だ、だめですか」
「いいや、別に構わないよ。というかその感情には興味ない。平たく言えばどうでもいい。僕が興味あるのは、君自身にだからね」
そうしてフェムトさんは急に真顔になると、両手を広げて微笑んだ。
「さあ、改めて祝おうじゃないか。ようこそ13王へ、"傾倒王フィヨト"!」
すると、何かに足を取られて、視界がぐるんと回ったかと思うと、ふわっと浮いて――目を開けると、そこにはフェムトさんの顔。えっ、これって、もしかして、お姫様抱っこってやつじゃ。
「きゅう」
途端に顔が熱くなって、私は意識を失った。
傾倒王フィヨト。それは、私の通り名だった。
フェムトさんに一目惚れした私は、彼に近づきたい一心で、魔道科学に没頭していった。……でもそれは、周りが見えなくなる、とも同義だった。うっかりと大きな失敗をしては、街を騒がせ、事態収束のために街を飛び回っているうちに、名前を聞かれるようになった。でも、本名を言うわけにもいかない。それで、知恵を絞ってこう名乗るようになった。傾倒王フィヨト、と。
泣いて謝りながら自分で蒔いた種を拾っていく様子は、フェムトさんと対比しておもしろかったらしく、HLの間でちょっとした有名人になっていた、そんなある日だった。
堕落王フェムトから、招待状が届いたのは。
そして、約束の日。憧れのフェムトさんを目の前にして、混乱した私が発した言葉は。
「好きです。あなたに恋してます、フェムトさん」
目を覚ますとそこには、視界いっぱいのピンク色。
「あ~、起きた~?」
「ひゃいっ!?」
ばさり。驚いた拍子に飛び起きる。声がした右手を見ればそこには、ポニーテールをぴょこぴょこと跳ねさせる偏執王アリギュラがいた。
「あ、りぎゅら、さん?」
「アリギュラちゃん、って呼んで~」
にこっと微笑む様子は上機嫌のように見えた。もしかして、少しは、歓迎されてるのかな。あれっ、というか。
「わあっごめんなさい、ベッド!」
「んふふ~覚えてる~? フィヨトってば~、フェムトに見とれて気絶しちゃったのよ~」
そのままでいいわよ~、と言うアリギュラちゃんは、ベッドの端に腰掛けた。そして私に向き合うと、両手で私の頬をむぎゅっと挟んだ。
「その代わり~、聞きたいことが~いっぱいあるの~」
「はえ」
「フェムトに恋しちゃってる~コハクちゃん~?」
「んぎゅ!?」
そういえば、聞いたことがある。偏執王アリギュラは、恋バナに目がない、と。
そうして、本名さえ握られていた私は、洗いざらいフェムトさんに惚れた経緯を話して、その一日を終えたのだった。