たぶん、きっと、そういうこと
「ところで、だ」
「はい」
「フィヨトは、恋とは感情の起因となるものだと言ったな」
急に話題が逸らされたと思ったら、いつかの話をされた。フェムトさんは記憶力が良いみたいで、どんな些細なことでも思い出せる。私のポンコツ脳とは大違いだ。
そういえば、あれからもう半年くらい経つのか。私が、13王のひとりとなってから。未だに実感はないけれど、迷惑をかけるスケールが大きくなった自信だけならある。ライブラの皆さんに申し訳ない限りだ。
「そこで、だ。考えてみたんだが、逆ということはないかい」
「逆?」
「因果関係が、だよ」
つまり、どういうことだろう。因果関係が逆。私は、恋からいろんな感情が生まれるのだと思っている。ええと、要するに。
「感情が生まれた結果が、恋になる、ってことですか……?」
「そういうことだね」
「うーん、私には当てはまらないかもしれません」
だって、一目惚れだったんですもん。そう何気なく言うと、フェムトさんはあんぐりと口を開けた。
「あれ、言ってませんでしたっけ」
「聞いてない!」
「私は、フェムトさんに一目惚れしたんです。だから、恋が一番最初になっちゃったんです」
「それじゃあ全く別事例じゃないか!」
「別事例?」
「ああもう、言わないつもりだったのに! 予定がまるで狂ってしまった!」
フェムトさんは紅茶を置くと、立ち上がる。
「僕はねえ、今までこんなに感情が揺り動かされたことなんてなかったんだよ」
「えっ」
それも、以前私が言っていたことじゃないか。
「君のことを思うと、嬉しくなったり、悲しくなったり、寂しくなったりする」
それも。
「気づいたら、世界が鮮やかになっていた」
……それも。
これではまるで。
「これに名前をつけるとして、『恋』以外に何か相応しいものがあるかい」
まさか、そんな。
ああ、以前の私だったら、恐れ多いとか言って、否定していたことだろう。けれどきっと、それをフェムトさんは望まない。一瞬ためらってから、口を開いて。
「私は、恋だったら、とっても嬉しいです」
ひとことひとこと、噛みしめるように言葉を発した。
「じゃあ、これは恋ということにしよう。――そういうわけで、コハク」
「はひゃ」
いま、名前で。
「僕はきっと、凡庸な人類どもと同じように君に恋をするだろう。それを、君は受け入れてくれるかい」
「う、受け入れられないわけがなくなく……あれ? ない……なく?」
「ははっ、君は本当に!」
必死になっている私に、フェムトさんは近寄る。そして、頬に、やわらかな感触。
「恋とは、おもしろいものだな」
「……はい」
顔が熱い。ふわふわしたままの頭で、今度は、私からフェムトさんに触れてみることにした――。